「火付盗賊改方・長谷川平蔵」
私は小さい頃から時代劇が大好きで、この「鬼平犯科帳」と「暴れん坊将軍」がお気に入りでした。
人の世のどうしようもない理不尽から、止むに止まれぬ事情で罪を犯して良心の啊責に苛まれる庶民。
そして見るからに悪い顔した悪党どもを一網打尽。成敗する火付盗賊改方・長谷川平蔵。
格好いい!
なんて格好いいんだ、中村吉右衛門さん。
渋くて賢くてユーモアがあって、なにより心ある人物・鬼の平蔵。
仕事ができるだけじゃあダメなのさ。
心を持って仕事をしているからこそ、部下たちに慕われ庶民に感謝される頭なんだよ。
ただただ事象を見るだけじゃあいけないのさ。生きてる人がやってんだから。
「鬼平犯科帳」は、美術さんのお仕事が素晴らしい。
年期の入ったザルやら竹箒やら生活の小間物から、人の着物や長椅子の布地。
部屋の中の桐箪笥や置物や黒光りする縁側…挙げたらキリがない。
美術さんの細やかなお仕事が光るのも、鬼平ならではとお見受けします。
続いて自然の景色、三味線のお歌。
絵の様な画面が並びます。
これは映像の方の力ですね。
時にモノトーンに、時に華やかに。
シーン毎の内容に沿った画面の色調は、物語をより一層引き立てます。
物語は言わずもがな。
見ている人を泣かせようと意気込んでなんかいない。
派手な音楽がなる訳でもない。
涙する役者のアップを撮るわけじゃない。
語る平蔵と涙する庶民。
静かにじんわりと心にしみる平蔵の人情。
ボロボロと泣かせて頂きました。
現実には勧善懲悪なぞありませんが、願わくば。
人と人とで出来ている世だからこそ、誰かの理不尽で誰かが泣くなんて事は、なるべく、なるべく、起きないでほしいものです。